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コラム

なぜ教科書通りのプランニングはうまくいかないのか

第7回 「ブランド認知率」ご使用上の注意(後編)

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画像 イメージ ブランド認知率 ご使用上の注意

前回はブランド認知率(前編)として、ブランド認知率と広告認知率の伸び方の違いやカテゴリー認知率についてお話ししました。今回は、検索行動に大きな影響があるとされる純粋想起のブランド認知率について触れていきます。純粋想起のブランド認知率は実際のところ、データを揃えるのが非常に難しい項目です。では、始めましょう。

なぜ、読売と日経の内閣支持率は高いのか?

新聞各社が毎月調査し発表している内閣支持率というデータがあります。その数字は新聞社ごとにすこし違っていて、概ね読売と日経が高く、朝日と毎日が低く出る傾向があります。これはよく読売と日経の読者が政府寄りで朝日と毎日の読者が政府に批判的だからだと解釈されていますが、そういうことではありません。なぜなら、新聞社の調査は自社の新聞購読者を対象にかけているわけではないからです。

内閣支持率の調査対象者は、新聞各社ともランダムです。それなのになぜ読売と日経が傾向として高く出るかというと、両社は支持か不支持かで迷っている人に「どちらかと言えばどうですか?」と重ね聞きをしているからです。内閣支持率が55%であるのと45%であるのとでは受ける印象は大きく異なりますが、調査は聞き方ひとつで数字が大きく変わってしまうことがあります。

純粋想起のブランド認知率データが少ないわけ

受講生からの質問:
並んだリストの中でチェックをつける助成想起のブランド認知率より、ヒント無しで頭に浮かぶ純粋想起のブランド認知率の方が検索行動に大きく影響するので重要と言われますが、純粋想起のブランド認知率のデータはほとんど見かけません。なぜでしょうか?

生活者がなにか検索して調べようというときに、何も見ないでぱっと頭にブランド名が浮かぶ純粋想起のブランド認知率が重要なのは、実際にその通りだろうと思います。しかし、それほど重要であるにもかかわらずあまり調査が行われないのは、実際のところデータを取るのが難しいからです。

純粋想起の調査では選択肢を提示できませんので、FA(自由回答)方式になります。そこで必然的に出てくる問題が「表記のゆれ」です。例えば「運送業者の名前を思いつくだけ挙げてください」という質問をした場合、「ヤマト運輸」と回答する人も、「クロネコヤマト」と回答する人もいます。それだけでなく、「クロネコ」「黒猫」「黒猫大和」というような、調査設計した側が思いつかないような回答も書かれます。また「ネコのマークの会社」という回答を「ヤマト運輸」のブランド名を純粋想起したと考えていいのかどうかというような、境界線が曖昧な部分もたくさん出てきます。

「表記のゆれ」以外にも、純粋想起は数字が高くなりにくいことが多くブランドによっては10%未満ということもざらにあります。10%未満のような低い水準の中で、前回との比較で有意差を出すためにはサンプル数をかなり多く確保する必要があり、さらにFA集計もあるため、調査費用が高額になりがちです。現在、ほとんどのブランド認知率の調査が純粋想起ではなく助成想起で実施されているのは、このあたりが原因にあります。

目安となるのはカテゴリー内で3位以内

データを取るのが難しいのをふまえたうえで、それでも純粋想起のブランド認知率をKPIに据えようと考えた場合に、どのくらいの目標を置くのが良いのでしょうか。気になるのが、「回答者は通常、何個くらい答えるものなのか」と「検索の総量の中で上位ブランドが占める分布がどのくらいか」ということです。

まず「回答者が答えるブランドの個数」ですが、2022年に行った調査によりますと、4個以上答える人は多くのカテゴリーで2割以下となっています。つまり、8割の人は3個までしかブランドを答えないということです。「回転寿司チェーン」で異なった傾向が出ていますが、「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」「かっぱ寿司」の4強に加え、地域を絞った展開をしているチェーンもあることから回答数が多くなりました。また「フードデリバリーサービス」は「ウーバーイーツ」と「出前館」に集中し、3個以上の回答者は2割を切る結果となっています。

データ グラフ 純粋想起されるブランド数の分布

 

データ グラフ 検索されるブランド数の分布

(出典:電通独自調査2022 エリア:全国 協力:ミルトーク)

 

次に「検索の総量に占める上位ブランド数の分布」ですが、上位3個までが検索総量の概ね60%を占めるという結果となっています。カテゴリーによって少しずつ状況は異なりますが、検索量を増やすということで考えれば、カテゴリー内で上位3位までに入るのが一つの目安となってくるようです。

純粋想起される=検索される?

純粋想起が多いと検索されやすいのは大雑把な傾向としてあるのですが、実際の生活においてどのように検索行動を行っているかというと、もう少し違った視点も持つ必要がありそうです。例えば子どもの中学受験のため「進学塾」の検討をするとします。その際、頭の中に名前が浮かんだ塾をすべて端から調べていくことはしないはずです。

A塾は進学実績が高いけれども非常に厳しいとの評判を聞く、B塾は個別指導のイメージがある、C塾は基礎に力を入れていて仮に受験をしなくなっても公立中に行ってから役立ちそう、といった具合に、名前が浮かんだ時点でその名前に何かしらの意味が付着しているケースが多いと思います。そして、その時点で「うちの子どもにはB塾かC塾が合いそう」といったフィルターがかかり、検索行動に移行します。A塾には最難関校コースだけでなく基礎コースも本当はあるのかもしれませんが、この場合、ブランド名の純粋想起はされているのに詳しく調べてもらえないということになります。

前回お話ししたカテゴリー認知率とも関連しますが、自ブランドにとって望ましい意味と一緒に覚えてもらうことは非常に重要です。現在、自ブランドはどういった意味と合わせて純粋想起されているのか。その意味は、それでいいのか。

広告主がよく考えるのは「自ブランドの本当の価値を知ってもらいたい」ということですが、それが生活者にとって理解できないケースは多いです。飛行機のビジネスクラスが「他の人より早く飛行機に搭乗できる」という話は生活者にもわかりますが、カメラの画素数が「旧モデルの4,000万画素から5,000万画素に進化した」という話は普通の生活者には理解できません。

「自ブランドを使うと生活者ができるようになること」が意味として付着した状態で、ブランド名が純粋想起される。付着している意味も含めて純粋想起のブランド認知率を捉えていくことが重要だと思います。

今回は、検索行動に大きな影響があるとされる「純粋想起のブランド認知率」についてお話ししました。次回のテーマは「ブランドエクイティ」です。

(次回は7月18日公開予定です)

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