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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

福里真一×木村健太郎×小西利行「商品と人生の間と書いて、広告と読む」

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ワンスカイの福里真一氏、博報堂ケトルの木村健太郎氏、POOLの小西利行氏の3名が登壇し、「アイデアとプレゼン」について話し合った昨年の電通デザイントークの続編が行われた。企画の真髄にさらにぐっと迫った、そのダイジェストをお届けする。

時代を取り込むフレームワークの作り方~BOSS「贅沢微糖」のCM

木村:「TOYOTOWN」のCMは、僕たち博報堂出身の人間からすると、すごく“電通的”に見えます。前回のトークで福里さんに聞いて「なるほどな」と思ったのは、TOYOTOWNのCDである佐々木宏さんが、海外ドラマの「『デスパレートな妻たち』みたいなCMをつくりたい」とディレクションした、というお話でした。普通のCMにはない、全体に何かが通底している感じは、そこから作られているんだなと。

福里:『デスパレートな妻たち』は、とある街に暮らす、一見平凡な主婦たちが実は様々な秘密を抱えている、ということを描いたドラマです。その謎が謎を呼ぶ展開を参考にしろ、と。ちなみに、佐々木さんにそのドラマを最初に見るように薦めたのは博報堂出身の某黒須さんらしいんですが(笑)。

小西:佐々木さんって、普段どんなクリエイティブディレクションをするんですか。

福里:一言ではなかなか言い難くて、簡単に言えば「ずっと色々なことを言っている」という感じでしょうか…。2時間打ち合わせがあったら、2時間ずっとしゃべっているわけで、最初と最後で言っていることがむしろ逆ということもありますし、その時のテーマとは全然関係なさそうなことも入っていますし。で、打ち合わせが終わる頃になると急に「じゃあ、考えてください」と。普通の人は何を言われたか分からないですよね。そこから、まっさらにして考え始める人もいれば、佐々木さんの話から何かを抽出しようとする人もいて、でも一番精神が崩壊するのは、言われたことを全部聞こうとする人ですよね。全部受け止めようとすると、色々なことを言われすぎて結果何もできなくなるという。

小西:それなのに、なぜ佐々木さんはヒットを連発するんですか。

福里:なぜでしょうね。10年以上やってきましたが、いまだにはっきりとは分かりません(笑)。プレゼン前日になって、積み上げてきたものが全部否定されるなんてことは日常茶飯事です。そこまで、かなり佐々木さんの意見で進めてきたにもかかわらず、「全然だめです」「こんな広告をやるくらいなら、やらない方がましです」とか。でも、そのときに佐々木さんの言う「なぜだめなのか」「こういう風に変えた方がいい」にある程度納得するので、皆、応えるんでしょうね。それを2週間前に言ってほしかったですけどね(笑)。

小西:ちょっと懐かしい博報堂のCDみたいですね。夜中の3時くらいに「全部だめ」みたいな話、よくありましたよね。それを現代でもやっているということですね。

福里:連日やっていますね。とにかく佐々木さん一人で、100人ぶんぐらいの目線で検証されるので、それがヒットにつながるのかな、と。本当によく分からないのですが…。

木村:今日も、事例を見ながら進めたいと思います。まず、BOSS「贅沢微糖」のお話をしていただきます。

福里:微糖の缶コーヒーは各社から既にたくさん出ています。その中で、わざわざ「贅沢微糖」と銘打つからには“贅沢”をどう表現するかを考えることが大事だと思いました。缶コーヒーは一般的に「体を使って働いて、甘みが欲しくなって飲むもの」なので、その方たちが共感できる贅沢の切り取り方とはなんだろうかと。そこで私が最初に考えたのは「贅沢言うな」というものでした。今、贅沢したいと思っている人はあまり多くなくて、贅沢ということについて一番共感できる視点は、むしろ「贅沢言うな」なのではないかと。

小西:確かに以前と比べると、贅沢したいと思っている人は少ないかもしれませんね。

福里:今という時代は、ある意味では、一億総“贅沢なこと”を言っている時代なのではないか。ネットでも、皆が政治や芸能やスポーツや、ありとあらゆることに文句を言っている。でも、自分がその立場になったらできるわけでもないということから考えると、みんなが贅沢なことを言いすぎなのではないかと。そのような時代に一人の男が立ち上がり、「贅沢言うな!」と叫ぶ。そこから「缶コーヒーは贅沢がいいけどな」、と「贅沢微糖」に落とし込むことを考えたわけです。

木村:実際の反響はいかがでしたか?

福里:2011年の2月にCMをオンエアしましたが、十分な反響が出る前に、3月に東日本大震災が発生して、贅沢どころか普通の生活すらままならないというときに「贅沢言うな」というコピーがそぐわなくなってしまったんですね。そこで次のタイミングからは、メッセージを変更しようということになりました。そのとき、「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンで有名な太田恵美さんというコピーライターの方が「あなたは贅沢していい人だ。」というコピーを書いてこられました。

小西:メッセージを変更されたと。

福里:つまり、また新しい贅沢の切り取り方として「贅沢したい」でも「贅沢するな」でもなくて、「あなたは贅沢していい人だ。」と。で、僕がこのコピーを見て思ったのは、このコピーの中には「いい人」という言葉が入っているな、ということだったんです。そこで、CMの前半で、いろんな「いい人」なシーン–がんばっているけど報われない、とか、やりすぎてしまう、とか–が描かれていて、彼のような人こそ、「贅沢微糖」で贅沢をしていい人だ、と落とし込みました。2011年日本における新しいヒーローは、ごく普通の「いい人」なのかもしれない、というコンセプトの下で表現してみたんです。

木村:このCMを見て思うのは、時代からちゃんと発想されていて、でも、すごくブランドにきちんと接着している。ジョージアとはまた違う、BOSSならではのブランドにガチッと落としているところがすごいなと思いましたね。

福里:CMをご覧いただくと分かるように、異様に地味なんですよね。行列をゆずったり、テーブルの真ん中に閉じ込められたり。普通はCMっていかにエンターテインメントになるか、派手で目立つかを考えるものなのに。最初に作ったときは「大丈夫かな」と思いましたが、時代の雰囲気なんでしょうか、反応はよかったみたいです。

小西:企画に本当に無理がないんですよ。最初の着想から、ごく自然に「そうだよね」と思える企画の流れができていて。普通はどこかで飛ばしてしまったりするものだと思うんですが。

福里:なるべく無理しない方が、結局はうまく行くような気がしていて。やっぱりテレビって、疲れているときに家で流れているものでしょう。一番ぼーっとしたいときにテレビをつけて、その時にCMも流れている。だからぼーっとした気分の延長線上にCMがあったほうが、すっと入れると思うんです。もちろんちゃんと目立たなきゃ、ということとの兼ね合いはありますけどね。

小西:BOSSのすごいところは、長期間続くフレームワークです。僕らは一個の強烈なフレームをつくって、長年やっていくために一生懸命フレームを固くしようとするんですけど、BOSSは時勢を取り込める柔軟な作りになっていますよね。

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