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コラム

マーケティングを“別名保存”する

広告宣伝は「雨乞い」のようなもの、ブランドは「自然発生」する

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【前回】「A4用紙1ページで整理する「ブランド戦略」【後編】」はこちら

自然発生した「Wagyu(和牛)」というブランド

画像提供:shutterstock

日本の漫画やアニメは海外でも人気ですが、「クール」だと思われているかというと疑問です。ビジネスで日本に駐在しているある外国人の友人は、「日本に住んでいる、というとよく勘違いされるけど、自分は漫画オタクではない」と眉をひそめます。一方で、国内ではその人気ぶりがあまりよく知られていませんが、海外で正真正銘にクールだと思われている日本ブランドがあります。「Wagyu(和牛)」です。

このWagyuブランド、国が戦略的に推進したクールジャパンとは対照的に、消費者や生産者、レストラン関係者の間に「自然発生」したともいえるその出自が、広告界にとってとても示唆に富んでいます。

3〜4年前くらいからでしょうか、外国のレストランでWagyuという単語をよく見かけるようになりました。これらの和牛の多くは、和牛といいながら実はオーストラリア産なのですが、海外でいうWagyuとは、神戸牛など純血の和牛「種」を意味します。

オーストラリアでは、それら純血種のほか、アンガス種などとの混血種も「準」和牛としてブリーディングされ、オーストラリア・ワギュー・アソシエーションという団体が品質と等級を管理しています。その名を冠すれば5ドルのバーガーが15ドルで売れるほどの価格プレミアムが付く、Wagyuブランドの盛り上がりに機敏にも目をつけたオーストラリアの食肉業者が、それをビジネスチャンスとして有効に活用したわけです。

こういったことがなぜ日本国内ではあまり知られていないかというと、「仕掛け人」的な人が誰もいないためです。日本の食肉関係者が仕掛けていたのであれば、産地ではなく「種」をもって和牛と呼ぶ、という我々には直感に反する発想をまずしないでしょうし、仮にしたとしても、国産牛のアドバンテージを奪うので積極的に推進はしないでしょう。

そして、実際海外で消費されるWagyuの多くをオーストラリアの食肉業者が生産しているのですから、経産省も農水省も大手を振って推進する由はないわけです。そうなると、このWagyuブランド、やはり消費者や生産者、レストラン関係者の間に「自然発生した」としか言いようがないのです。

GoogleやFacebookの「ブランド力」はどこから来たのか

ここから、今日においてブランドはステークホルダー(消費者、従業員、パートナー、株主などなど)の間から立ち昇る、自然発生する、という仮説が立てられます。Wagyuの場合は企業や国の直接的な働きかけがなかったわけですから、唯一カギとなりえたのは消費者・関係者の「体験」だったはずです。

多くの人が固有の名前のもとに繰り返し「いい体験」をすると、口コミの臨界反応(燃料の追加なしで炉が燃え続ける状態)のようなものを通じて、その名前がブランドとなって立ち昇り、やがては大元である「いい体験」からも独立した価値を持つようになります。

GoogleやAmazon、Facebookなどは、ブランディングキャンペーンなど一切行わず、強固なブランドを短期で築き上げました。彼らはサイトの使い勝手や表示の速さに、狂信的なまでのこだわりをもっています。検索ボックスの位置を1ピクセル単位で調整するなど、細かい実証実験を毎日のように繰り返し、使い勝手を向上させる専門の部隊を抱えています。

「いい体験」の醸成は「対顧客」だけにとどまりません。口コミの臨界反応を期するには、あらゆるところに火種が必要です。GoogleとFacebookは、日本企業も顔負けの手厚い福利厚生へのこだわりでも有名です。

そんなこだわりがもたらす「いい体験」から、消費者や従業員ら関係者の間に自然発生的に立ち昇ったのが、彼らのブランドなのではないでしょうか。初期のGoogleやFacebookは技術者の会社なので、彼らが当初自社ブランドについて具体的なブランドイメージやブランディング戦略をもっていたとは想像できません。

広告宣伝でブランドをデザインする、企業や国が戦略的に創り出す、ということの難易度は高まるばかりです。消費財(FMCG)は伝統的な広告宣伝の主戦場と言えますが、アメリカ市場において、消費材の新商品が失敗する確率は95%にものぼる、というデータがあります。成功率が5%ということですが、これはネヴァダ州の砂漠で雨乞いが成功するのと同じくらいの確率です。

もとより広告宣伝は、砂漠の雨乞いのようなものでした。SPはセールスプロモーションではなく、スプレッド&プレイ(ばら撒いて祈る)の略だ、とはよく言ったものです。ブランドをデザインするという視点から、「体験をデザインして、ブランドの自然発生を見守る」という視点への転換。顧客へのアプローチのみならず、全ステークホルダーの体験に配慮していくという文化・哲学づくり。

宣伝広告担当者を取り巻く環境のさらなる「砂漠化」が進むなかで、これらが「脱雨乞い」の第一歩となるに違いありません。

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