サービスデザインは進化し続けている
また今回のカンファレンスは、トピックが多岐に渡っていたのも印象的でした。スピーチのテーマを挙げてみますと「そもそもサービスデザインはどういう分野に向いているか」「サービスデザインの最近の手法論」「サービスデザインを活用して、社内がどう変化したか」「サウスウェスト航空や、ウーバーなどのサービスデザインを使った具体的な事例紹介」「サービスデザインをどう売り込むのがいいのか」などなど。
また個人的に感じたのは、ヨーロッパ系はパブリックセクター系を中心に広がりを見せているが、その「売り方」や「マネタイズ」には少し苦労しているような印象を持ちました。
一方で、アメリカ系はすでに売り込み方やマネタイズがバッチリできている、という感じでしょうか。ヨーロッパとアメリカには、かなり大きな違いがあるのでは?という印象を持ちました。
実際「サービスデザイン」と聞くと、博報堂DYホールディングス系列の会社がIDEOに出資したというニュースを思い出す人も多いかもしれません。IDEOは、サービスデザイン界の押しも押されぬトップランナーとして世界で活躍しています。またIBMでは、すでに社内にデザイナーが1300人ほどいると言うのです。やっぱりアメリカ系の流れが強いのかな?と思いました。
またサービスデザイン界は年々、進化発展しているので、広告系クリエイティブの競合としてコンサルティングファーム、データソリューション系の企業と当たることも増えて来ているんだと実感しました。
サービスデザインと広告クリエイティブの親和性
冒頭に述べたように、個人的には広告クリエイティブとの親和性は非常に高いと思っているので、広告界は積極的に取り入れてもいいのではないかと感じます。それどころか、そもそも両者は出発点が同じではないか?と思うのです。
それはカンファレンスでも散々語られていましたが、サービスデザインでは「人にどれだけインパクトを与えるのか?」ということを目的としているからです。「人にインパクトを与えないサービスは意味がない」という観点から、サービスデザインでは人間(ユーザー)観察などを重視しますが、広告だって全く同じだと思うからです。
そもそも「サービスデザイン」という名前がついていなくても、皆さん、自動的に同じことを行っている可能性もあります。というのは、筆者も前職の博報堂時代に関わったプロジェクトが、のちにIDEOのティム・ブラウンさんの「デザイン思考が世界を変える」という著書の中で、「サービスデザイン思考を用いて大成功した日本のプロジェクト」として紹介されているのを知って驚いたことがあるからです。
「自分たちがやっていたのはサービスデザインだったのね」と後から知ったわけです。皆さんも、すでに普段の業務で行っていることかもしれないのです。
今回のカンファレンスは、日本からも30~40名くらいの方が参加されていたようです。筆者は、オランダから単身参加したので200%アウェーを想定していましたが、意外にも現地には日本からの参加者が多かったこと、さらに皆さんに違和感なく受け入れていただいたので、すっかり居心地よく越境感を感じずに入れました。笑。
カンファレンスの前日に行われたサービスデザインネットワーク(SDN)の各国支部が集まるメンバーズデイでは、全世界のChapter(支部)が対象のChapter Awardが発表され、なんとSDN日本支部が表彰される、という嬉しい知らせもありました。関係者の皆さん、おめでとうございます。そして、ここに至るまでのご尽力ありがとうございました。
広告クリエイターはこれを好機と捉えて、どんどん「越境」してはいかがでしょうか?日本の広告クリエイターは、もともとポテンシャルが異様に高く、確実に世界に通用すると思うのです。こういうところをとっかかりに、越境してみるのもアリかなと感じています。もしかしたら、一気に国境も、職能も「越境」できるかもしれないですよ。
最後に、つけ足しのようになってしまいますが(そして、実際付け足しなのですが)オランダもサービスデザインが進んでいる国の一つです。皆さんとオランダを繋げることももちろんできますので、どしどし越境して来てください。お待ちしております。
吉田和充(Creative Business Development/Branding Designer/Creative Director/保育士)
1972年東京生まれ。1997年慶應義塾大学卒業後、博報堂入社。CMプランナー/ディレクターとして、40社、400本以上のCM制作を担当。ACCグランプリ、コピー賞などを獲得。
在職中に1年間の育児休暇を取得し、家族でアジア放浪へ。2016年、子どものクリエイティブな教育環境を重視してオランダへ移住。2017年現在、Neuromagic Amsterdam BV CEO、個人事務所SODACHI CEO、STYLA TOKYO クリエイティブディレクター。広報広告全般からマーケティング、企業の成長戦略策定、ブランディング、新規事業立ち上げ、新商品開発、Web制作、サービスデザイン、海外進出などクリエイティブ業務全般を担当。
アムステルダム市との協働プロジェクトとして、アムステルダム市の「粗大ゴミの処理問題」にも取り組む。
元サラリーマンクリエイターの海外子育てブログ『おとなになったらよんでほしい|おとよん』連載中。
「クリエイティブシティ アムステルダムから送る「越境のススメ」 」バックナンバー
- 広告は未来をデザインするものであってほしい(2017/12/14)
- 日本×オランダの協働プロジェクト開始 越境は「スピード感」が命(2017/11/29)
- 元CMプランナーがラーメン店をプロデュース。クリエイターの「越境力」(2017/11/08)
- Brexit問題がアムステルダムのクリエイティブ産業を活性化する?(2017/10/19)
- オランダのクリエイティブ人材を輩出する教育機関「メディアラボアムステルダム」(2017/10/04)
- アムステルダムの中心にある「ファブラボ」で起きていること(2017/9/20)
- 世界でいま最も熱いクリエイティブシティ、アムステルダム(2017/9/07)
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