コラム

国民総ダンサー時代前夜に考える、ダンスとクリエイティブの幸福な関係

「このダンス企画は、なぜあの人が振付なの?」はどう決まるのか

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ダンサーの疑問「なんでこの企画に、この振付師なの?」に答えます

冒頭の話に戻りますが、CM・PVなどでダンス企画が決まったとしても、その企画意図を正確に表現する振付師・ダンサーを見つけて、映像表現として成功させるのはそう簡単ではありません。成功もありますが、「どうしてこうなってしまったんだ…」というものも多々見受けられます。

それには二つ理由があると思っています。一つは広告の企画を正確に理解しつつ、ダンス表現も正確に理解しているという人がほとんどいないこと。二つ目は、広告企画が実施されるまでの承認プロセスにおいて、実績が非常に重視されるということだと思います。

ここに、ダンサー側が「なんでこの企画に、この振付師なの?」と思う事態が起きる原因があります。ダンサー視点で言うと、「このジャンルの第一人者は俺だろう」というダンサーもいるでしょうし、ダンス界の誰もが「このジャンルなら、あの人かあの人だよね」というダンサーもいます。が、そういう人に依頼が来ることはまずありません。

なぜなら、シンプルにそのことを広告制作者側が知らないからです。CMプランナーや映像ディレクターと話していて「ダンスものを撮影したいんだけど、なかなかダンサーの人と出会えなくて…」と言われることもよくあるのですが、ダンス界にいる自分としては、とてつもない数のダンサーがいるのが分かっているので、驚愕してしまいます。それだけダンサーと映像業界の方が出会う、接触する機会が少ないということでしょう。

クリエイターの方がダンスが好きで詳しくて、アンダーグラウンドの実力派振付師・ダンサーを使いたいと思ってくれたとしても、クライアントを説得するという高いハードルがあります。クライアント内でも宣伝担当から宣伝部長、宣伝担当役員、と大企業だと少なくとも三レイヤーぐらいは通過しなければならず、無名の振付師で納得させるのは至難の業なのです。広告会社の営業さんも「頼むから揉めない人にしてくれ…」と願っていることでしょう。

結果的に、映像の仕事を数多く経験してきている振付師に仕事が回っていくのは至極当然のこと。もし、映像系の仕事をしたいダンサーの方は、この仕組みを理解して活動していくことをお勧めします。

映像の実績が無いとほぼ100パーセント大きい仕事はできないので、自主制作でもなんでもいいので自分が振付したり踊ったりした映像作品を作ることから始めましょう。

キャリアが重要なのは、広告の撮影で機能してくれるかどうかで広告クリエイターが起用を決めるからです。自分の意図をくみ取ってくれるか、話が変わったときに柔軟に対応してくれるか、現場でタレントさんができない動きなどがあったときに、違う動きをすぐに提案する瞬発力があるか、そもそも打ち合わせや撮影に遅刻しないかなども、クリエイターとしては心配です。

映像の仕事はダンサーの自己表現の場ではないので、「映像をいいものにする」という共通の目的のために努力してくれることが大切で、豊富なキャリアはそれをある程度保証してくれます。ダンスのスキルだけでなく、このような総合的なスキルが映像現場における「ダンスの実力」だと思った方がいいと思います。

広告制作者側の視点で考えると、「監督がやったことある振付師さんで…」という広告会社のクリエイティブの方も多いと思いますが、その振付師がその企画を表現するに適した人であるとは限りません。

ダンスについてよく分からない時に、名前のある方を起用する安心感は捨てがたいものがあると思いますが、その時は「あなたにプロデュース料はお支払いするので、自分よりもこの企画に向いていると思う人がいたら、振付はその人にお願いして、監修してください」というのも手だと思います。

もしくは、最近増えてきた複数人で構成される振付ユニットに依頼するのがリスクは、少ないと思います。だいたい、ストリートダンス系とコンテンポラリー系が得意な人が一人ずつはいて、企画に合わせて得意な人が出てくるというスタイルなので。このようなスタイルが増えたのも時代の流れですね。

ダンスの企画が最初からやりたければ、お互いにとって本当のベストは、監督を企画打ち合わせに入れるような感覚で、ダンサーを入れることだと思います。

それに耐えうる人材はまだ少ないと思いますが、ダンサーの皆さんも映像の世界で生きていきたいのであれば、宣伝会議さんがやっているような広告の講座を受けてみるのもいいと思います。クリエイターの思考プロセスは分かるでしょうし、企画ができるようになればとてつもないアドバンテージです。どんな仕事でも川上に行くことで、選ばれるのを待つ立場から選ぶ立場になることができます。

第一回に書いたように、今後ダンス経験のあるクリエイター、映像ディレクター、クライアントがどんどん増えていくでしょうから、今回のテーマのような問題もなくなることでしょう。

その状況で生まれる、かつてないダンスクリエイティブに期待を膨らませつつ、今回のコラムを終わらせていただきます。

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