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コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

デスメタル映画音楽のオファーが来ても、デスメタルは「聞きゃしなかった」(ゲスト:ヒャダイン)【後編】

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リリー・フランキーさんの登場シーンに苦戦

ヒャダイン:広告の方はすごいなと思うんですけど、プランDぐらいまで最初いろんな案を提出されるじゃないですか。作曲家の場合は、例えば曲を4曲ぐらい提示したとしたら、3曲没になったとしてもリサイクルできるんですよね。他のアーティストにちょっと書き直して使ったりとか、別の機会に使ったりとかできるんですけど、(広告は)そういうわけにはいかないですよね。

澤本:全部が全部没になったあと成仏できないかって、そうでもないんです。例えば、仮にコカ・コーラっていう商品でプランを考えて、ダメだったと。でもエッセンスとして、例えば「お化けが出てくる」っていうエッセンスは、違う商品に持ってっても成立するなっていうのはあります。だから全く無駄になるっていうわけはないですね。考えたことはゼロにはならないけど、でも確かに死ぬ案は多いです。

ヒャダイン:逆に広告業界のお仕事するときには、こっちにもそれが要求されるんです。「プランD まで出してください」みたいな(笑)。

中村:そういう意味で音楽は、この聞こえてるBGMでも、言うなればリサイクルしやすいっていうか。何て言うんだろうな~、言葉が無い分抽象的っていうか。権八さんもめちゃめちゃ案出しますよね、普段。プランナーとしては。

権八:そうですね。案たくさん出す方かもしれないですね~。今澤本さんおっしゃった通りで、必ずしも案は出したら出しっぱなしではなくて、エッセンスは使えたりするんですよね。例えば、ある商品のお水がおいしすぎて目からうろこが落ちた、みたいなことは商品が変わっても使えるじゃないですか。必ずしも1回しか使えないってことはないですね。変な質問になっちゃうんですけど、人の曲を聞いたときに「あっ俺が考えたメロディだ」って思うことはないですか?

ヒャダイン:あー……。ないですね。

権八:ないか(笑)。

ヒャダイン:例えばですけどそれは、提出して、没になって?

権八:みたいなこともあるし、たまに僕テレビ見てて「これ面白いなー、でもこれ前俺つくったしな」って思うことあるんだけど、よくよく考えたら、つくってないんですよ(笑)。没になった案にすごく似ていたり、「誰かに案を見られた」っていうより、いろんなパターン考えすぎちゃってて。

ヒャダイン:曲のメロディってすごく独自性があるものなので、完全に一致は少ないかもしれないですね。なのでそういったところの嫉妬とか焦燥はないですね。疑問があるんですけど、広告業界の方は脚本も何パターンも出すんですか?

澤本:そうですね。まず「どの話にしましょうか」っていう段階では元々2つぐらいあって。

権八:『一度死んでみた』以外にも企画がいくつもあったんですか。

澤本:松竹の方と相談して「これ」ってなったあと、フジテレビの方とかと相談すると、やっぱり向こうの方が専門家じゃないですか。僕はCMのロジックでセリフ書いちゃうんで、映画としてまとめるときには「ここが前にあった方がいい」とかセオリー的なのを教えてもらうんですよ。

僕は脚本に伏線を張って最後に回収するのが趣味なので、順番変わると伏線が伏線じゃなくなってしまうんですよね。それがすごい困ってぐしゃぐしゃになってる中、無理やり強引に伏線張ったら最終的にそれがすごく面白かったんです。だから1回かき混ぜてもらった方がよくなるんじゃないかなっていうのがあるんですよ。でもあんまりそれ言い過ぎたらいっぱいかき混ぜられちゃう(笑)。

中村:確かに(笑)。「やっていいんだ!」ってなるとね。

澤本:「あいつ言っても怒んないんだ」みたいな。

中村:確かに今回の映画、めちゃくちゃ伏線ありますもんね。

ヒャダイン:爽やかな回収ですよね、全部。「こんなに爽やかなのか!」っていう感じ。

澤本:ありがたいです。僕は見終わった後にみんなが落ち込んだりしない映画の方が好きだし、そんなに悪い奴が出てこない、出てきたとしても「こいつ殺したい!」とはならないぐらいの方のが好きだし。

権八:悪い奴もかわいいですもんね。

ヒャダイン:僕、映画とかで伏線があるものってすごく苦手なんですよ、イライラしちゃって。でも『一度死んでみた』観たら全然そんなことなくって。「伏線だったんだ~」っていうものもありますし、2回目観たときにわかることもある。あととにかく爽やか!

澤本:よく言えば爽やかで、悪く言えばくだらない。

中村:観に行ったカップルは、その後いいデートしそうですよね(笑)。

ヒャダイン:公開時期が春っていうのもまたいいですね、爽やかで。桜の季節に丁度いいな~って思いますね。

澤本:僕ね『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がものすごい好きなんですよ。荒唐無稽で悪い奴もいるけど、基本的に全員がハッピーになって、「To Be Continued…」ってなって、ならないにしても観終わった後にちょっと楽しくなる。「2またあるのかな?」っいう感じがやりたくて、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は音楽もすごくいいし、今回はそういう風になれてたら嬉しい。なってたとすると、音楽の貢献度が異常に高い。これは真面目に言ってます。

ヒャダイン:ありがとうございます。

ヒャダイン:結構難しいシーンもあって、リリー・フランキーさんにつける音楽が一番難しかったんです。

中村:飄々としたキャラですもんね。

権八:存在感がまた独特の立ち位置というか。

ヒャダイン:そうなんですよ。紳士的な雰囲気が難しかったので、それはもう曲をつくり込んで出したんですけど、1回没になって。監督も「何か違う」ってことでその曲だけがすごく苦戦しました。それで、コードだけ決めてスタジオにミュージシャンを呼んで、サックスプレイヤーに「すいませんがコードしかないんですけど、映像を見ながら好きに弾いてもらっていいですか?」ってお願いしました。

そのかたは音楽的に造詣が深いので、すごく困りながらもやってくれて。彼はすごくて、テナー、アルト、クラリネットまで持ち替えていろいろな音を重ねてやってくれて、そのおかげですごくぴったり合う昔のジャズみたいな、最高の仕上がりになりました。そういう風に難儀した曲もありましたね~。リリーさんのシーンはそういった目で見ていただいても、面白いかもしれません。

権八:普通のお客さんの感覚で言うと、「映画音楽ってどういう風に作ってるんだろう」っていう人も多いと思うから、すごい面白いんじゃないですかね、この話。

中村:さすがに撮影の現場に行かれることはないんですか?

ヒャダイン:今回はなかったですね。曲を作ったのは撮影前なんで、見に行っても特にそこから変えることもなかったですね。見に行くのはただの観光みたいな感じになっちゃうので(笑)。

澤本:すずちゃんの録音のときはいらっしゃった?

ヒャダイン:行きました!

澤本:そのときはどうでした?

ヒャダイン:広瀬すずさんの歌のディレクションをするはずだったんですけど、すっごい練習してきてくれていて、プリプロって言われる本番の前の仮録音の時点でだいぶ完成していて、その時の音源がとてもよかったんです。だから本番はほとんど録ってないんですよね。一応歌っていただいたんですけど、「これ前のでも使えますよね?」「それでいきましょう」っていう。ほぼ何もやってなかったです(笑)。

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