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損保ジャパンの動画を活用した業務効率化、プロジェクトの進め方【後編】

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【前編】はこちら

ビジネスの場では、ここ数年でビジネスチャットツールが使用され出し、また、新型コロナウイルスの影響によってビデオミーティングツールの利用が飛躍的に進みました。しかし、今も多くの企業が紙中心のコミュニケーション手段を取っています。
 
紙中心のコミュニケーションから動画を活用することで業務効率化を図るプロジェクトを成功に導いた損害保険ジャパンの3名に、『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』の著者、前田考歩氏がインタビューを実施。今回はその後編です。前編では、プロジェクトの始動から、社内で動画を制作し活用する文化が浸透し始めるまでのお話を聞きましたが、後編ではその後、プロジェクトが新型コロナウイルスの影響をどのように受けたかを中心に、話を聞いていきます。

コロナ禍での制作本数は月あたり約8倍に!新しい営業スタイルにもスピーディーに対応

前田:さて、1年間で400本もの動画が現場で制作されるようになったとのことですが、具体的にはどのような成果が出たのでしょうか?

宇津木:当初、動画を制作していた部署は営業部がほとんどでしたが、新しいシステムについて説明する社員向けの動画や、お客さまとの電話応対品質向上に向けた勉強動画など、営業部門以外でも動画が制作されるようになりました。

前田:営業部以外の部署での活用が広がったというのは、今まで「動画といえば長い時間をかけて制作するもの」という社内の固定概念を覆したことの現れですね。

こうした良い流れがあったなかで、新型コロナウイルスによって受けた影響もあったのではないかと思いますが、どのような変化があったでしょうか?

河口:私は4月からチームに加わったのですが、まず動画制作本数だけでみると、2019年度が年間400本だったのが、2020年4月から6月の期間だけで800本制作されています。それに伴って配信量も増えており、2019年度は月に多くても30GB程度だったのが、5月だけで380GBになりました。

前田:2019年度はひと月33本ペースだったのが、2020年はひと月266本ペースというのは、ここまでのお話を聞いていないとにわかには信じられない数字ですね。

宇津木:増加の要因は営業部。営業部が800本の内、約85%の動画を制作しています。コロナ前は営業といえば訪問が主で、動画はサポート的な役割でした。それが、コロナ後は代理店さんに訪問ができないため、動画が主になりました。訪問できないという状況が、営業社員の取り組みの本気度や真剣さに大きな影響を与えたと思います。

また、今までは商品説明動画が多かったですが、制作する動画の内容にも変化が出てきました。例えば、4月の人事異動に伴い、着任した支店長が今までであれば代理店さんの店舗に直接訪問し挨拶をしていたのですが、挨拶の自己紹介動画を撮影して送るようになりました。他にも、コロナ対策のノウハウを動画にしたり、動画をただ配信するだけでなく、制作した動画をカテゴリー別に分類し、“簡単操作マニュアル”を制作する営業店も出てきました。

導入している社内SNSにも自発的に動画活用の取り組みを投稿していて、ナレッジの共有が進んでいます。現在、私たちのチームが活用提案をしたり制作サポートをしたりといったことはほとんどなく、動画活用については完全に自走していると言っていい状態です。

前田:最初に立てた、「パワーポイントを制作するように動画が制作できるようになっている」という勝利条件が、現場の知恵と力とが掛け合わさって、見事に達成されたというわけですね。しかもそれが既に自走状態に入っているということが素晴らしいと思います。

新型コロナウイルスの影響を受けて変更を迫られた営業スタイルが、通常であれば対策に右往左往して停滞してしまうところ、これまでの動画制作の経験やノウハウが資産となって、新しい営業スタイルにスムーズに移行できた要因になったのだと感じました。当初の勝利条件が達成された今、新たな獲得目標と勝利条件はどのように定めていらっしゃいますか?

遠山:イノベーションチームとしては、これまでは即席のチームだったのですが、動画活用プロジェクトの成功が評価され、組織として認められることになったので、引き続き会社に価値のある活動をしていきたいですね。

河口:今後は、コミュニケーションの手段をより動画中心にしていくことで、代理店さんの自律化を支援し、かつ自社の営業社員の活動がより効率的に、より本質的な業務に時間を割けるようにしていきたいと考えています。今後は、代理店さんに向けて、営業店から積極的に動画で情報提供をしたり、知りたいことをいつでも参照したりできる場所をつくり、そこで動画を見れば問題が解決できるといった、代理店さんの利便性向上・支援につながるような仕組みづくりにも取り組んでいきたいです。

前田:イノベーションチームが導入したツール・手段が、デジタルトランスフォーメーションをけん引する手段となっており、今後もさまざまな新しい事例が生まれてきそうです。今回は貴重なお話をありがとうございました。

損害保険ジャパン
IT企画部 企画グループリーダー
遠山岳志氏

IT運用・基盤・アプリ開発、および2度の会社合併によるシステム統合のPMOなどを経て、現職。全社の「働き方改革」を支えるソリューション(モバイル、チャット、SNS、動画、Web会議)の導入に携わり、現在は「Withコロナ」の対策と共に「アフターコロナ」「アフターデジタル」をテーマに中長期的なIT戦略立案を担当。

 

損害保険ジャパン
IT企画部 計画推進グループ
河口晃一郎氏

一般営業部門、グループ会社のシステム会社出向を含むシステム部門を経て、現職。
本社ビル内のネットワーク整備、次世代に向けたオフィスレイアウト変更、デジタルツールを駆使したオフィスインフラ改革(Web会議ツール、1Rollを始めたとした動画作成ツール)を担当し、当社のデジタルトランスフォーメーション施策を担っている。

 

損害保険ジャパン
IT企画部 計画推進グループ
宇津木奈央氏

営業推進部門・法人営業部門で自動車関連企業の営業担当を経て、現職。IT活用・デジタルトランスフォーメーションをキーワードに社内外のコミュニケーション改革、社員や職場が抱える課題解決、働き方改革等の企画を担当。

 

前田考歩氏

自動車メーカーの販売店支援兼グリーンツーリズム事業、映画会社のeチケッティング事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントを行う。子どもの探究心を育む「なんで?プロジェクト」、企業のイベントやセミナー設計のための共通言語をつくる「イベントモジュールプロジェクト」などを主宰。宣伝会議では、「プロジェクトマネジメント基礎講座」、「web動画クリエイター養成講座」、「提案営業力養成講座」などの講師を担当。

 


書籍案内

見通し不安なプロジェクトの切り拓き方
今日の社会においては、実に幅広い領域で、ルーティンワークではない前例のない仕事、すなわち「プロジェクト」が発生しています。
特別な訓練を積んでいなくても、特別な才能がなかったとしても、共通のフォーマットやプロトコルに基づく「仕組み」や「方法」によって、チームを成功へと導いていける。
本書では、未知で困難なプロジェクトを切り拓くための方法をお伝えします。

 

対談バックナンバー
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