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コラム

なぜ教科書通りのプランニングはうまくいかないのか

第5回 「カスタマージャーニー」ご使用上の注意(後編)

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前回はジャーニー(前編)として、カテゴリー特有の接点を考えることと、あまり描かれることのない購入後のジャーニーの話をしてきました。今回は、キャンペーン前や期初計画のタイミングでジャーニーを計画するときについ間違えてしまいがちなことについてお話しします。優秀な人ほど間違えてしまうジャーニーのポイントとは何か。では、始めましょう。


画像 イメージ カスタマージャーニー ご使用上の注意

突然やってくる大きな波

2020年8月に起きた「冷凍餃子 #手間抜き論争」をご存知の方も多いと思います。本田哲也さんの著書『ナラティブカンパニー』に経緯の詳細が詳しく書かれていますが、概略としては、ある女性が「体調が悪い中、冷凍餃子を使って家族に食事を作ったが夫に手抜きと言われた」という主旨のツイートをしたことが発端です。このツイートに同情の声が多く集まり、2日後に味の素冷凍食品の公式Twitterアカウントが「冷凍餃子を使うことは手抜きではなく手間抜きです」と発信。その一連のツイートに44万「いいね」がつき、テレビや新聞が取り上げるという大きな反響に繋がった事例です。

味の素の公式が反応した日からしばらくの間、味の素の冷凍餃子に対する好意的なツイートや「味の素さんいつもありがとう」という感謝のツイートが多く上がり、それらにも数百から数千の「いいね」がつくというバズり方をしました。その後、味の素は「手間抜き」を可視化する動画「大きな台所篇」をYouTubeに公開し、90万回再生を記録しています。

冷凍餃子を販売しているメーカーは味の素だけではありません。着目すべきは、元のツイートが出た時点では冷凍餃子全般の話であったものが、味の素がいち早く反応した後には「味の素の冷凍餃子」の話に変わっていることです。さらに、「手抜きvs手間抜き」は餃子だけでなく冷凍食品全体にかかわる対立構造でもあります。冷凍食品全体では味の素のほかにもニッスイ、マルハニチロ、ニチレイなどが大きなシェアを持っていますが、この「冷凍餃子 #手間抜き論争」が冷凍食品そのもののパーセプションを変化させ、冷凍食品カテゴリーにおける味の素の存在感にプラスの影響を及ぼしたことは間違いありません。

「設計段階でジャーニーをすべて描き切れる」と思ってはいけない

前回、ジャーニーには「カテゴリー特有の接点」を考慮することが重要で、そうした接点を考える際は企業側がセットできるものかどうかにかかわらず、購入への道筋となるものであれば接点として捉えていくべきという話をしました。また、企業からの一方的な情報通達だけではなく第三者の発信する情報と合わせながらブランドに対する気持ちや認識を作っていく必要があることも、すでに広く認識されていることだと思います。

しかし、ことジャーニーを描くとなると、キャンペーン前や期初計画のタイミングですべてを描き切れると考えてしまうマーケターが非常に多いのが現状です。実際のところ、企業側がセットできない接点には恒常的に存在しているものだけではなく、こうした「突然やってくる大きな波」が含まれます。そうしたものに正しく対応できるかどうかが大きな違いを生むのが、今の時代です。

受講生からの質問:
クライアントからよく「生活者から自然発生的に起こるのではなく、企業側から仕掛けて波を起こす方法はないですか?」と言われるのですが、難しいですよね?

マクドナルドの業績をV字回復させたことで知られるマーケターの足立光さんが「話題化の大前提は自分で言わないこと」と述べられているのですが、これは本当にその通りだと思います。ですが、それでも自分で言ってしまいたい、がまんできないという広告主は非常に多いです。

企業が「このビールは美味しい」と言っている広告と、ビール好きの友達が「今、あのビールにハマっている」と言っている話を両方見聞きしたとします。その後で自分が誰かとビールの話になった場合、話題にするのはやはり後者の方になると思います。後者の話には「そのビール好きな友達はどういう人か」「自分とその友達はどのような人間関係にあるか」といった情報量が多く含まれているため、楽しい会話にしやすいからです。

人は人に関心があり、さらに言えば人間関係に関心がある。これは原理原則的なことだと思います。企業の言うことよりもリアルな人の言うことに心が動きやすく、さらに知らない人よりも知っている人の言うことに心が動きやすいのは、発言内容そのものに加え、それを伝える人や人間関係への関心が上乗せされるからと考えることができるでしょう。

「突然やってくる大きな波」に対応するために必要なこと

そうした大きな波に対応していくために、必要なことがいくつかあります。まず予算に少し流動的な部分を残すことです。事前に描いたジャーニーに沿ってガチガチに予算を固めてしまうと、対応の幅が狭まってしまいます。ペイドメディアに大きく投下するわけではないのでそれほどの金額が必要なわけではありませんが、味の素の「大きな台所篇」の動画制作や、過去には日清食品「10分どん兵衛」の謝罪企画のように、オウンドメディアに載せるためのコンテンツを制作できるような予算をある程度は残しておく必要があります。

次に、Twitterを日々確認することです。広告主もそうですが、広告会社のクリエイティブやデジタルメディア担当など様々な専門領域の人が見ておくことで、対応の広がりが生まれてきます。Twitterは速さが重要なので、週に1回の定例会議では間に合いません。波が来たとき間髪入れずに情報共有し、対応していく必要があります。

最後に、ワード開発です。味の素のケースでは、「手抜きではなく手間抜き」「工場は大きな台所」という2つの強いワードが非常に大きな役割を果たしました。テレビCMなどの広告制作ではそのブランドを表現する様々なワード開発がなされますが、実際の制作に使われるのはほんの一握りです。使われなかったワードの中にも優れた表現はたくさん存在するはずで、それらを公式アカウントの「中の人」と共有し、大きな波が来た時のために準備しておくことが重要と思います。

今回は、設計段階でジャーニーをすべて描き切れると思ってはいけないということについてお話ししました。次回のテーマは「ブランド認知率」です。

(次回は7月10日公開予定です)

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