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全社員に平等であることに囚われすぎていませんか? 個の役割が変化する時代の広告ビジネスと従業員評価

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「広告」がマーケティング活動の中核として機能していたマス・マーケティング全盛時代と比べると、クライアントがパートナー企業に期待する機能や役割は変化しています。「メディア枠」の提供からマーケティング課題を解決する「ソリューション」の提供へ。「広告代理店」から「マーケティング支援会社」へと進化が始まっています。広告業界のビジネスモデルが変化をしていく中で、広告業界の経営や人材マネジメントはどうあるべきなのでしょうか。本連載は、、自らイベント会社を経営し、広告産業におけるプロジェクトマネジメントの課題に直面した若村和明氏が創業した、その課題解決につなげようと開発された案件収支管理システム「プロカン」を提供するシービーティーと宣伝会議の共同企画。3回目は、デジタルマーケティング支援会社MOLTSの松尾謙吾氏に話を聞きます。
松尾謙吾氏

 

パートナーとして真価を問われる日本の広告会社

―広告業界に起きている変化をどのように捉えていますか。

いろいろ変化は起きていますが、大きく2つあると思います。ひとつは事業者側の広告に対するかかわり方です。デジタルマーケティングだと特に、広告会社に多くを任せてしまう場合とインハウスで運用するケースがあります。外注か、インハウスか…。これは、一定周期でトレンドが行き来していると思います。

なぜ、2つの運用方法で揺れ動くのか。その原因は人材にあります。ネット系の広告に携わる人は転職が多く、大体3年スパンで人が入れ替わります。広告会社で一定のスキルを身につけたのち、事業者側に転職する場合ケースが多い印象です。

もちろん、スキルが高い人は事業会社でも広告会社でも必要としますので、激しい人材の奪い合いが起きています。デジタルマーケティングにかかわる人のすそ野は広がっていますが、優秀な人材の比率は大きくは変わっていない。常に人材不足の状況が続いているので、事業会社側でも良い人材が獲得できればインハウス化を目指しますし、それが実現しない時には、広告会社に任せる。一定周期で揺れ戻しがある背景には、業界に慢性的にある人材不足の問題があると思います。

もうひとつの変化が、クライアントである事業会社の方たちが、広告会社に対して、よりパートナーとしての立場を求めていること。そして我々は、パートナーとしての真価がより強く問われているという状況があります。

コロナ禍で多くの企業が、従来の顧客接点が失われる中で、「事業を継続させるために、いかに自社のビジネスを変化させられるか」という課題に直面しました。我々としても、これまでだったらクライアントに説明する時、例えば「こういう広告をやってこういう集客をしたら売上が伸びる」というようなお話をさせていただくことが多かったです。しかし、コロナ禍では前例が通用しませんでした。消費者がこれまでになかったような動きをするからです。

これまでの経験だけに頼ることができず、予測も立たない環境の中で、「一体、この先どうしたらよいのか?」という課題に対し、真に相談できるパートナーを求めるクライアントが増えました。正解が分からない中でも、共に知恵を出し合えるか。広告会社には、パートナーとしての真価が問われるようになったと感じます。

そもそも当社ではクライアントから依頼された課題を解決することによって「ただ自社が収益を得られればよい」という考えは持っていません。「美味い、酒を飲む。」という当社の理念が表す通り、そのプロジェクトで「クライアントの事業を伸ばそう」という志を持つようにしています。クライアントの課題に対して本気でぶつかり合って一緒に目標に向かって成果を出す。そのためにはクライアントだからという迎合は全くしないという姿勢を強く貫いていますし、こうした姿勢がコロナ禍を経験し、より強く求められるようになったと思います。

独立採算で全員対等な関係緊張感を持った関係が組織を強く

―経営管理・収支管理・個の評価という点について、広告ビジネスが抱えている課題としてお感じになられたことをお聞かせください。

2016年に設立されたMOLTSは「デジタルマーケティングのプロフェッショナル集団」を標榜しています。専門領域が全く同じメンバーは少なく、一人ひとりが独立できるほどの実力とネットワークを持ち、それらを掛け合わせることで、デジタルマーケティングのあらゆる課題に対応しています。

当社は基本的に成果主義です。では、どう「個」を評価しているのか。結論を言えば、MOLTSでは人の評価をしていません。個人の給与は自分が獲得した売上総利益に対して何%と決まっているからです。そこにクライアントからの評価も反映されます。

また、コロナ禍以前からリモートワークを導入していましたが、福利厚生の観点から在宅ワークを認めているわけではありません。成果主義の会社なので、通勤の移動にかかる時間をなくす代わりに成果だけしか見ないという姿勢の表れです。私は2017年からMOLTSに参画しているのですが、転職先として選んだ決め手は「独立採算・全員が対等・同僚との緊張感を持った関係」でした。特に同僚との関係に関しては、会社の中にいるから仲間というだけでなく、プレッシャーをかけあえる緊張関係が気に入っています。

例えば、新しい仕事を獲得し、他のプロフェッショナルをアサインしてチームを組む必要性が起きた時、もちろんMOLTSのメンバーも候補に入りますが、決して同じ会社のメンバーを優先することはありません。社外により良いプロがいれば、その人に声をかけます。こういう姿勢が、互いに緊張感を持って仕事に臨める環境を作っていると思います。

前職を辞め、次のキャリアを考えた際、独立を視野に入れなかったわけではありません。しかし結果的に独立を選ばなかった理由としては、前職での経験を通して、ひとりでやれる範囲に限界を感じたからです。自分とは違うスキルを持ち、かつ考え方をぶつけ合える仲間がいるというのは、単純に足し算ではなく掛け算にできるという強みを組織として持っていると感じています。そのため私は独立を選ばず、プロフェッショナルが集まる場所を一緒に構築したいとMOLTSを選択しました。

当社はこの業界においてレベルが特別に高いかと問われると、さすがにそこまではいっていないという自覚もあります。ただ「MOLTSはこういうスタンスで業務を行っている」と言えるところが魅力的だし、そのことを外に言うことによって自分に対してプレッシャーをかけ、メンタル的にも強さを持てるようになります。

―働き方改革が経営管理、収支管理、さらには個の評価というところまで行き着くと、広告ビジネスで働く一人ひとりにとって、どのようなポジティブな影響が与えられるとお考えですか。

いま、マネジメント側は社員の「個の力を伸ばす」ことに難しさを感じていると思います。個の力を伸ばそうとした場合、他の人たちと比べて「この人はこの点が突出している」と見抜き「君はこちらで仕事しよう」というアドバイスになるのですが、難しいのはそれが時に「えこひいき」に見えてしまうことです。その点についていえば、会社が平等であろうとすることに対して囚われすぎていると感じています。

多様な力を持った個を評価する難しさもあるでしょう。当社では、どのような仕事をいくらで受けて、各自の売上目標を達成するのか。その道筋は個々人に任されています。しかし、各自の売上やプロジェクトの進捗はスプレッドシートでまとめ、誰もが把握できるようにしています。各自の仕事や利益がシートで可視化されることで、情報共有が活性化し、競争意欲も高まります。ある意味で、MOLTSの働き方は自由度が高いですが、自由の裏には責任がある。この自由と責任の双方があることが、個が生きる組織の在り方ではないかと思っています。

「編集協力/株式会社シービーティー「プロカン」」

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