デザインは「生きること」をもっと良くするためのもの
「デザイニング」をスタートした当初は、九州・福岡の情報を外に向けて発信していくことを目的に、活動していたように思います。
しかし活動を続け、たくさんの素晴らしい人たちや状況に出会う中で、「全ての人はプロの生活者である」という、とても単純な事実に気づかされる機会がたくさんありました。建築を含め、生活に密接に関わるデザインは、デザインの専門家だけのものではないのだと再認識させられました。
2008年以降は、仕事の中でもクライアントと一緒に考え設計を進めていくことをより意識するようになりましたし、「デザイニング」自体も「共に考え、学ぶ」ことができるようなイベントのあり方を考えるようになっていきました。
情報自体がこれほどの量とスピードを持って行き交うようになってきた現在、「時間と場所を共有する」ことで成立するデザインイベントという形式は、とても合理的とは言えない方法論だとも思うのですが、近年では「時間と場所を共有するからこそできること」に重きを置き、すでにそこにある魅力的な場所や人、ものやことを伝えることを模索し、この街で暮らす人たちと一緒にイベントをつくってきました。
例えば今春のデザイニング展では、出展者の中から数名にお願いして、それぞれが拠点を構える地域の「まちの紹介者」になってもらい、その人たちなりの視点で街紹介をしていただきました。
「まちの紹介者」の人たちは、カフェのオーナーや写真館を営む写真家、文房具店の店主やデザイナーなど、それぞれの活動のフィールドは様々ですが、皆さん福岡で独立して仕事をしている人ばかりです。
その「まちの紹介者」をゲストに迎え、トークイベントを行ったところ、そこで交わされた会話はデザインや職能の話を超えて、働き方や暮らし方など、生きることについての対話そのものでした。
世代も活動の分野も違う、建築や計画の専門者ではない人たち同士が、お互いの前提を諒解し、自分たちの暮らす街やそこでの生活のあり方について真剣に対話している状況は、10年前に「デザイニング」の活動を始めた頃には想像すらできなかったものでした。
独立して10年、建築やデザインの仕事、デザイニングの活動を続けてみて、「プロ(専門者)とアマチュア(非専門者)」や「施主(委託者)と設計者(受託者)」などの線引きを越えて一緒に悩み考えること、そのようにオープンでフラットな、多様性を受け入れることができる環境から、新しい建築やデザイン、状況が生まれるとことを実感してきました。
そういう意味では、私自身もひとりの建築家として、技術者として、「ようやくスタートラインに立った」ということが正直な感想です。
これからも生活の手触りを忘れずに、より良い状況や場所、建築をつくることを目指して、トライ・アンド・エラー、コール・アンド・レスポンスを続けていきたいと思います。
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