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コラム

国民総ダンサー時代前夜に考える、ダンスとクリエイティブの幸福な関係

「ダンサーのことが分からない!」と悩んでいる広告制作者の皆さんへ

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ダンスCMでダンサーを「絶望」させる編集とは?

「カッコいい」についてはもう一つ大きな問題がありまして、ストリートダンサーとそれ以外の方々で全く違う認識であることがあります。
それはストリートダンサーにとっては「音を表現する」ということが至上の価値(=カッコいい)であるということです。もちろん、世界観や衣装など様々な要素がありますが、音楽が一番大事。

2013年にタレントのベッキーさんの妹さんがアメリカのダンスバトルの大会で優勝した、というニュースが発信されました。
その映像を見た人から賛辞の一方で「何がすごいのか分からない」「これって上手いの…?」という声が挙がりました。

 

Juste Deboutという大会は世界で最も大きな2対2のバトルイベントで、これはそのアメリカでの予選決勝。当然、とても上手いです。

ただ一般の方からすると、ダンスが上手いというのは「揃っている」とか「技が派手」とか「身体能力がすごい」とか「キレがある」みたいなところだと思うので、あまり上手いと思えないのかもしれないなと思います。

ですが、ストリートダンサーにとっては音は絶対的なものであって、どんなに動きが速くても、アクロバティックな大技が決まっても音とズレていたら台無し。
「音に合っている(乗っている)」ということは唯一守るべきルールとでも言うべきもので、できていないと「惜しい」というよりも「全然だめ」という烙印を押されるぐらいのことなのです。

音に乗れているか(そもそも音に「乗る」というのはどういうことなのか、次回以降取り上げたいと思います)、音の特徴を動きで表現できているか…、そんなことを考えて、ダンサーは踊り、振りを作っています。

ダンスCMなどでダンサーから一番相談、悲痛な叫びを受けるのもここの部分で、クリエイターやクライアントが全く考慮してくれない、軽視されている、という話はよく聞きます。
振付を頼まれた時の曲が撮影時・編集時に変わっていた。編集で曲のスピードが遅くなっていた、速くなっていた。歌詞が変わっていた。楽器が変わっていた。編集で、違う部分のダンスをインサートされた。しかも、音とズレていた。
などなど…。

もう、ダンサーにとっては絶望しかありません。

偉い人たちは画しか見ていなかったり、音楽がBGMに過ぎないものだと思っていたりするので、このまま世に出てしまう訳ですが、ちょっとでもダンスをやったことがある人は一瞬で「おかしい」と分かります。
つまり、「カッコいいダンス」を用いたCMが本来ターゲットとしている若者たちの大半は一瞬で「ダサっ」「全然分かってない人が作っている」と判断します。

ダンサーがどのように振付しているか、音楽に対してどのように身体をもってアプローチするかは一般の方は全く分からないと思いますが、リズムも音色も楽器の種類も歌詞も含めてあらゆることを計算に入れた上でベストな動きを導き出し、またそれをつないで流れを作っていきます。
何か一つ要素が変化すれば、すべてを作り替えなければならないほど繊細なものです。

もしも「カッコいい」ダンス映像を作りたいという際には、ぜひ振付依頼時に完パケの音源を渡せる仕切りを。あとで、音をリッチにしたりするのはまだいいので、せめてリズムを変えるのだけはやめてあげてください!

という広告制作側の皆様への切なる願いで、第一回目を終わらせていただきます。