机に向かわせてくれた魔法の言葉
案の定、インタビューのあともなかなか執筆の時間が取れず、もう無理かも、とあきらめそうになるたびに私を机に向かわせたのは、講師の石原卓先生の言葉「不本意でも出すことが大事」「〆切があるから書ける、文章がうまくなる」である。
この言葉は何気ないけれど、すごい力があった。
余計なことを考えず(いいものを書きたいとか優秀賞を狙おうとか)、提出だけを目標にがんばれたのはこの言葉のおかげだ。
結果、ふりかえってみると自分の書きたいことから離れずに最初から最後まで書けた気がしている。時間に余裕がなかったこともあるが、ただ純粋に「読者に村井理子さんのことを知ってもらいながら、いかにテーマをわかりやすく伝えるか」に集中できた。
これまでの講義でも、米光一成先生の「発想する段階から自分で抑圧するな、まず書いてみよ。すでにそのままでオリジナリティがあるのだから」には勇気をもらっていたし、青山ゆみこ先生による課題添削で「本当に書きたいことを書いていないのではないか?」という鋭い指摘を受けたことで「自分の伝えたいこと」から離れずに書ききれたと思うが、そうして書いたものを人目にさらす、という最後の後押しをしてくれたのは、石原先生からの言葉だった。
メモの効能を実感
石原先生の言葉は、講座を聴きながらさっとメモをしていた。後にこのメモがここまで自分の支えになるとは思ってもみなかった。
さらに卒業制作に煮詰まっていたとき、冒頭の書き出しをふと思いついて「あ、いいな」と思いメモしてあった。読者のことを考えていたら自然に降りてきた、という感じだった。まだインタビューの文字起こしもしていない時だったと思うが、急いで「『翻訳』と聞いて何を思い浮かべるだろう」とメモしたことを覚えている。
いざ執筆のときになると、時間との戦いでかなりあせっていたのだが、このメモの書き出しから始めると冒頭部分はするすると書けた。本当にメモのおかげである。机の前で書こうとしても出てこなかっただろう。石原先生の講義で紹介された村田喜代子さんの著書『名文を書かない文章講座』にも書かれていたが、メモの効能をつくづく実感した。
My 自尊心 is back!!
編集ライターになるというよりは、日常の「書く」スキルをもっと上げたいと思って受講したのだが、書くこと以上に深い学びがあったと思う。
私自身は10年以上も教える仕事に就いているにもかかわらず、人の目が気になる性格で、それゆえに精神的に疲れてしまうのが悩みだった。
でもそれが書くときに読み手のことを思い、常に読み手が読みやすいように工夫することにつながるのかな、と思った。「そんな自分も悪くない」と少し自分を認めてあげられるようになったのは、大げさではなくこの講座のおかげである。
そして「書く」ことで予想だにしていなかった最優秀賞という評価までいただき、この数ヶ月で地の底まで落ちていた自尊心が少しだけ取り戻されてとても救われた。
選んでくださった先生や宣伝会議スタッフの皆さん、本当にありがとうございました。
卒業制作のタイトルは「なぜ私たちは英語を学ぶのか?~翻訳家・エッセイストの村井理子氏に聴く、英語学習と翻訳の関係~」です。
月刊「広報会議」に講評と共に掲載される予定なので、たくさんの人に読んでもらえるとうれしいです。
松田 佳奈(まつだ・かな)
和歌山市生まれ、和歌山市在住。英日翻訳者を経て、現在は英語スクール代表および大学などで英語の授業を担当。「編集・ライター養成講座 総合コース」修了生。
講師陣は、総合誌、週刊誌、ビジネス誌、ファッション誌、Webメディアなどさまざまな分野の現役編集長や、第一線で活躍中のライター・ジャーナリスト・作家など。多くの課題添削、実践トレーニングを通じて、現場で活躍できる編集者、ライターを養成します。
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