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コラム

ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論

「ブランドパーソナリティ」を偽ると、ブランドづくりは失敗します。

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「存在価値」と「約束」が「ブランドパーソナリティ」の前提になる

今回も、具体的に事例を用いながら、パーソナリティについて詳しく説明します。前回同様、煎餅屋のケースで考えてみましょう。

煎餅屋の店主であるあなたは、自らの「ブランドアイデンティティ(存在価値)」が「醤油煎餅にこだわる」ことであることに気付きました。そして生まれ故郷の山形県で昔食べていた、地元特産の醤油でつくる、おばあちゃん手作りの醤油煎餅の味が忘れられないことから、「山形県の米と醤油にこだわる醤油煎餅が日本一美味しいと思っていて、あなたもこの醤油煎餅を食べたら絶対美味しいと思う」を「ブランドプロミス(約束)」としました。店主の名前は仮に、片山としましょう。

でも、うっかりしていて、「ブランドパーソナリティ」は決めていませんでした。

そんな折、今までのお店があった場所から立ち退く必要があり、別の土地に移転することになりました。

そこで、移転先に合わせて、経営コンサルタント・建築家・デザイナーの3名にお願いして新しいお店を建てました。それはこんなお店かもしれません。

・店の外観は、コンクリートの打ちっぱなしの現代風(かっこいいですね)。
・店の内装は、日本を感じさせる京都をイメージしてデザインされており、日本の象徴である富士山の写真も大きく飾られています(外国人に受けそうです)。
・商品パッケージは、派手なピンクの蘭の花柄模様(かわいいですね。インスタ映えしそう)。
・看板は「KATAYAMA SENBEIYA」(前の看板は漢字で「片山煎餅屋」でしたが古臭くて新しい店の雰囲気に合わない。英語の方がなんかいい感じだし、外語人にも読めるように、英語にしました)。

デザイン性が高く、インスタ映えやインバウンドなどの消費トレンドに対応した素晴らしいお店です。この店の店員さんは個性的なTシャツを着て、「この醤油煎餅、超いい感じ~だよ。絶対買えよ!」と熱く勧めてくれるかもしれませんね(フレンドリーでいい感じです)。

この店、それぞれの要素は、とてもよい。悪いものは何ひとつありません。

でも、この店で本当にうまくいくと思いますか。私は、きっとうまくいかないと思います。その理由は、「人格・個性」がバラバラだからです。

そして何よりも問題なのは、その人格・個性が「存在価値」「約束」と何の関係もない「人格・個性」であることです。

こんな店の店主から、私は「醤油煎餅にこだわる」存在で、「山形県の米と醤油にこだわる醤油煎餅が日本一美味しいと思っていて、あなたもこの醤油煎餅を食べたら絶対美味しいと思う」と言われても信じられません。「約束」を交わすことは難しいでしょう。

店主は、どうすればよかったのでしょうか?

まず「存在価値」と「約束」が「醤油煎餅にこだわる」であることを前提にして、ちゃんと「ブランドパーソナリティ」を決めるところから始めなければならなかったのです。

店主と煎餅がなんとなくもっている「人格・個性」とは、「おばあちゃんが孫のために心をこめて焼いた」という部分です。

だから、「ブランドパーソナリティ」は、「素朴・やさしさ・思いやり」。人間でいうと「山形のおばあちゃん」になります。

素朴でやさしく思いやりのある人として、あなたの「存在価値」を生活者に「約束」しましょう。

あらゆる判断基準が、“素朴でやさしく正直な人らしいこと”か、どうかになります。

言い換えると、「おばあちゃんならきっとこうする」「こんなことはしない」という基準で判断をしていくことになります。

すると、移転先のお店はこうなります。

・店の外観は、おばあちゃんが醤油煎餅を焼いていたであろう、山形の民家風。
・店の内装は、おばあちゃんが醤油煎餅を焼いていたであろう、田舎の台所。写真は、山形の四季がいいですね(美味しい山形の醤油を育んでいる山形の四季へのあなたの敬意がなんとはなしに伝わるのではないでしょうか)。
・商品パッケージも、おばあちゃんならこんなパッケージ選ぶだろうなと思われる」シンプルで素朴なもの。
・看板は前と同じ「片山煎餅屋」です。絶対に変えてはいけません。もちろん山形らしさはないですが、英語よりもずっと「ブランドパーソナリティ」と合致しています。別の書体の漢字にしたくなったりしますが、おばあちゃんは看板をコロコロにかえるような浮わついた人ではありません。いったん作った看板を素朴に守り続ける人です。この看板に誇りをもちましょう。

おばあちゃんは、どんな服装だったのでしょうね。

店員さんの服装は、素朴で、おばあちゃんがいつもつけていそうなエプロンをつけている。店員さんは「田舎の煎餅なのでお口に合わないかもしれませんが、このお煎餅が美味しいと思っていただければ本当にうれしいです」と謙虚だけど、愛を込めて醤油煎餅をすすめてくれます。

ああ、この人は、「山形県の米と醤油にこだわる醤油煎餅が日本一美味しいと思っている人」だと感じます。「約束」を果たそうと心から思っていることがわかります。

本当に「約束」を果たそうとする熱意が、「人格・個性」から伝わるのです。

「ブランドパーソナリティ」が、ブランドづくりにおいて何かをやるときの判断基準になること、あなたの企業・商品が、生まれながらに、今なんとなくもっている「人格・個性」でなければ絶対ダメなことがわかっていただけたでしょうか?

①②③がはっきりして、これでブランドの基礎はできました。

次は、いよいよ実践のさらに具体的な進め方であるブランド戦略についてです。ただブランド戦略の前に、この連載に対して多く寄せられる同じご意見に対して、しっかりと説明しておきたいと思います。

そのご意見とは「ブランドづくりの目的は『世のため人のため、地球のため(社会貢献・CSR・SDGs等々)』であり、金儲けであるという主張は時代錯誤で根本的に間違っている」というもの。

みなさん、SDGsでブランドがつくれるなどと、ブランド論の幻想に惑わされていてはいけませんよ。

【次回コラム】「SDGsで、ブランドなんかつくれません! 「ブランド論の幻想」に反論します。」はこちら

本コラムの前編「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論」は、こちらよりご覧をいただけます。