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いま、人の心を動かすものとは~ 岡本欣也×原野守弘×チャイ子ちゃん®

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言葉のユニバーサルデザインを考える

原野:コピーライターは、もともと広告においてコアをつくることが仕事。でも、日本では80年代以降CM中心の時代になり、さらに広告ではなく販促を追い求めるようになってから、CMプランナーのような職種が台頭した。コピーライターの役割が変わってしまった気がしています。

岡本:居場所がないという感じもしつつ、専門職化しすぎた感もあり、「修行します」みたいな意識が強くありますよね。茶道や武道のように極めていき、修練の先に成功がある、みたいなことになりすぎて、逆に自ら可能性を狭めてしまっている気もします。

チャイ子ちゃん®:岡本さんが本の中で「コピーライターは真理屋さんだ」と書いていますが、私はそれがすごくいいなと思いました。「1000本ノック」とよく言われるように、コピーライターはたくさんのコピーを書くことを教えられますが、その中でいろいろな切り口から“真理”を見つけていく。それが集まって1つのボディコピーになっていく。だから、コピーライターは発見屋でもあるんだなと。

岡本:おそらくコピーライターは何十年も“発見”というところに特化してきたと思うんです。ただ、そこで少し止まってしまっていた感もあって、“コピーライター=一言つくるだけの人”みたいに思われている気がするんです。
素晴らしいキャッチコピーをつくることももちろん大事だけど、そこにストーリーを与えたり、ステートメントを書くことができないと、今世の中に求められていることからコピーライターとしての仕事が乖離していくかもしれない…。

原野:見た人、聞いた人の心を動かすことが広告の目的だとすると、やはり強いボディコピーがないと人は動かない。心を動かすボディコピーを読ませるために、「ここにいるよ」ということを示すべく、キャッチコピーというものがあるんでしょうね、本当は。

岡本:本来はね。

原野:だから、今はキャッチコピーがあって、ボディコピーはその説明文のようになっているけれど、そもそもは「ステートメントが主役である」と捉えるべき。それによって、人の心をまとめることができると考えたほうがいいのかなと思います。

岡本:その通りだと思います。

原野:僕は以前GODIVAの仕事で、岡本さんと一緒に仕事をして、そのことを実感しました。僕は「GODIVAが日経新聞で日本のボスたちに義理チョコをやめようと呼びかける」というアイデアだけを持って、岡本さんのところに「コピーをつくってください」とお願いに行ったんです。1週間後に完成したのですが、「日本は、義理チョコをやめよう。」の原稿を読んで、正直感動しました。ちょっと泣きそうになった。ある種過激なアイデアが、心を動かすステートメントになっていたんです。実はそこから1文字も修正されずに、そのまま新聞に掲載されたんですよ。

チャイ子ちゃん®:すごい!

2018年のバレンタインデーに出稿されたGODIVAの新聞広告。

原野:岡本さんは本の冒頭でステートメントやボディコピーを“1枚の手紙”と表現していたように、GODIVAは社長からの手紙をそのまま広告にしたような形になっています。ちなみに岡本さんは、いつも手紙のように書くことを意識されているんですか?

岡本:そうですね。僕がコピーを手紙のように書くようになったのは、師匠である故・岩崎俊一さんの影響です。もともとは岩崎さんが「コピーとは手紙である」とおっしゃっていました。そのことを自分でもやっているうちに気付いたこともあって。それは言葉のユニバーサルデザインみたいなことが必要じゃないか、ということです。

原野:言葉のユニバーサルデザイン。もう明日から使えますね。

岡本:全ての人に優しいデザインや空間と同じように、全ての人に無理強いしない、強制しない言葉、最も優しい言葉は何なのだろうって考えていったときに、やっぱり人を差別しない、峻別しない、あらゆる人が読みやすく、そして意図をすいすい受け取れるものであるべきなんじゃないかなと、何となく思いはじめて。だから、ステートメントもユニバーサルであるべきだと僕は思っています。

次ページ 「脳科学から考えるクリエイティブ」へ続く