ユニークユーザー獲得のためにはバズ=ホームランではなく、必ず塁に出ること
天野:フローとストック、テンションとモチベーションの話でいくと、SNSを活用しようという企業の中には第一声が「どうやったらバズるんですか」という、テンションの側面にフォーカスしがちなことも多い。ただバズは必ず起こせるものではないし、不確定性がつきまといますよね。
バズで広がること、盛り上がることの価値には深く同意しつつも、ソーシャルメディアの本質的な価値はそれにはとどまらないという理解が深まっていくのは大切なことかと思います。
佐渡島:知られると価値がある情報を発信している中で、結果としてバズが起きるなら意味があります。しかし、バズを起こすことを目的にするのは意味がないと思います。本来はまず地道な努力をする、そして結果としてバズが起きるという順番です。野球で例えれば、ヒットの延長にホームランがあるという姿勢で打席に立つのが良くて、ホームランを狙って打席に立ち続けるべきではないということでしょうか。
天野:わかりやすいですね!ホームランは派手でかっこいいけれど、実は出塁率のいちばん高いチームこそ最も強いんだということを、データをもとにしたチーム運営で実証した『マネーボール』(メジャーリーグ「オークランド・アスレチックス」のGM、ビリー・ビーンの半生を、ブラッド・ピット主演で映画化した作品)を思い出しました。
SNSを開くとホームランを飛ばした投稿ばかりが目に飛び込んでくるから、ホームランを狙いたくなりますが、それもかなり確率的に見ると…なんですよね。また単発でバズった熱狂は冷めたときの落差も大きく、短期的にはリーチが伸びたとしても、ファンやユニークユーザーが残るかという別問題もあります。
佐渡島:映画プロデューサーの川村元気さんと話した時に、『君の名は。』のヒットは偶然ではないと話していて、その理由を聞いて納得しました。
新海誠監督は、それまでに10作以上連続で100万人以上動員をしてきた。その中であそこまでのホームラン(最終的な累計動員数は1928万人とされる)が出るのは当然で、100万人を常に動員するために新海監督は、壮絶な努力をしてきたのだと言うんです。100万人の動員自体がすごいことなのだけれど、それをずっとやると決めていたからこそ、「君の名は。」の大ヒットという結果に繋がったとも言えるのだと思います。
天野:ご著書でも「一度に100万部売れるよりも10万部×10年のほうがいい」と仰っていましたね。
佐渡島:例えば太宰治の『人間失格』は長期にわたって愛され、累計約650万部以上出版されています。これは、本は一人1部しか買わず、読み続けてくれるからこその数字で、10万ユーザーが定期購入したら大ヒットと言われる飲み物などの消費財も、ユニークユーザーの数自体は変わらないマーケティングかなと思うんです。10万人を囲いにいくマーケティングって意味では本も消費財も全く変わらない。
PVに踊らされるとメディアが本質的でなくなるのと同じで、売上だけに惑わされずに、ユニークユーザーをどう定義し、そのユニークユーザーがどれだけの数いるのかを理解して、マーケティングをしっかりやっていくべきなんです。
(後編「企業にとって至上命題になったユニークユーザーの把握」に続く)
※本記事は「シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~」の重版決定を記念し、帯記載の推薦文をご寄稿いただいた佐渡島氏と著者・天野氏との対談を基に作成しています。
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